第28回 日本臨床救急医学会総会・学術集会 The 28th Annual Meeting of Japanese Society for Emergency Medicine 第28回 日本臨床救急医学会総会・学術集会 The 28th Annual Meeting of Japanese Society for Emergency Medicine

プログラム

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日程表

プログラム

会長講演

守谷 俊(自治医科大学附属さいたま医療センター)

特別講演

松本吉郎(日本医師会会長)
三浦豪太(プロスキーヤー・博士(医学))

海外講演

Benoît VIVIEN (SAMU de Paris, Anesthesiology and Critical Care)

会長特別企画

「知られざるヒーローたち ~ドクターカー写真コンテスト 2025 in YOKOHAMA~」

「災害時におけるクリーンディーゼル車(軽油車)の有用性」 東日本大震災をはじめ、これまで幾度も私たちは大規模災害の現場に立ち会ってきました。
その中で何よりも痛感したのは、「移動手段」や「燃料確保」がいかに命を守る医療活動に直結するかということです。
ガソリンが手に入らない。
救急車が走れない。
発電機が止まる。
通信や冷暖房が使えない。
そのような状況で、患者を搬送し、救命処置を行うことがどれほど困難で、救助を行う側の私たちがいかに不安であったのか。そして今も、首都直下地震や南海トラフ巨大地震といった更なる災害が現実の脅威として迫っています。今一度、皆さんも考えてみましょう。

教育講演

橋田俊彦(横浜国立大学総合学術高等研究院客員教授、元気象庁長官)
金子直之(深谷赤十字病院救急診療科)
櫻井 淳(日本大学医学部附属板橋病院救命救急センター)
古川力丸(板倉病院救急診療部)
梶原絢子(獨協医科大学看護学部)
讃井將満(自治医科大学麻酔科学・集中治療医学講座)

シンポジウム、パネルディスカッション、ワークショップ →後掲

シンポジウム講演
阿南英明(神奈川県立病院機構)

ワークショップ講演
岸本正文(府立中河内救命救急センター)

Pros and Cons

救急車の有料問題を考える 救急医療サービスの在り方は今、重要な岐路に立っている。急病やけがが発生した際、迅速に病院で治療を受けられるよう、救急車は全国どこでもすべての利用者に無料で提供されている。しかし、緊急性が低い状況でも「何かあれば救急車」と119番通報するケースが増え、救急車が適正に利用されていないのが現状で、この状況が続くと、本当に必要な人への対応が遅れるリスクが高まり、救急救命士にも身体的・心理的な負担が大きくなることが懸念される。そこで、救急車の利用を有料化すべきかについてPros & Consの観点から討論することを企画した。有料化により無駄な利用を抑制できる可能性がある一方、経済的に厳しい人々が利用をためらうリスクも考えられ、特に高齢者や低所得者層への影響は深刻であり、医療アクセスの公平性の観点からは慎重な検討が必要である。各専門職がそれぞれの視点から意見を深め、救急車をより効果的に活用するための解決策を模索し、今後の救急医療の在り方について、多角的な視点による議論をまとめていただきたい。

小児病院前救護の特定行為 現場で実施すべき?vs. 搬送を優先すべき? 病院前救護において救急救命士が適切かつ迅速に救急救命処置を実施できるかが傷病者の救命率向上に大いに影響する。しかし、小児病院前救護では、小児傷病者への救急救命処置基準が地域のメディカルコントロール協議会ごとに異なることや小児病院前救護に係る資器材や教育体制が十分には整備されていないといった課題が山積している。
本セッションでは、救急隊員にとって経験することが少ない小児傷病者に対する病院前救護において、質向上の障壁となる現場での運用上の課題やその解決策について議論したい。

専門医共通講習、救急科領域講習

日本救急撮影技師認定機構指定講習会

シンポジウム・パネルディスカッション・ワークショップ 会場レポート

シンポジウム

:会場レポートあり
1)院外心停止例の神経学的転帰改善 ~病院前からリハビリテーションまで~

心停止蘇生後の生命予後を改善する取り組みは進められてきましたが、神経学的な転帰改善は未だ不十分です。本セッションでは、病院前での心肺蘇生の質や脳保護対策、入院後の集中治療やPICS(集中治療後症候群)への対応、さらには退院後の転帰改善を目指した試みについて紹介いただければと思います。病院前での心肺蘇生、心停止蘇生後の集中治療(体温管理を含む)など、神経学的転帰についてレビューやトピックスを取り上げます。ハイパーフォーマンスCPR、eCPR(経皮的心肺補助を利用した心肺蘇生)、脳蘇生のための体温管理療法の導入、水素ガス治療などの新しい治療、独自のPICS対策、リハビリテーションなど、治療の最初から最後に及ぶまで、医師、看護師、薬剤師、救命士などの多職種による、院外心停止に対する神経学的予後を改善させるための課題について議論したいと思います。

会場レポート

座長(レビュアー):守谷 俊  シンポジウム1は、木下浩作(日本大学)、守谷 俊(自治医科大学)は座長のもと院外心停止例の神経学的転帰改善(病院前からリハビリテーションまで)と題して、6題(4名が医師で2名が救命士)の演題が発表された。泉州南消防組合の木村氏は、バイスタンダーCPRにおける口頭指導の検証では質の評価の重要性を占め示した。白山野々市広域消防の髙田氏は、ハイパフォーマンスCPRを現場に持ち込む重要性について報告し、そのうち消防団員へはフィードバックの重要性を報告した。奈良県立医科大学の川井氏は、院外心停止の全国データより作成された予後予測モデルに対して、奈良県データを用いて神経予後良好確率への影響を評価した。薬剤投与や除細動が影響し、搬送時間は関与が少なかったことを報告した。八戸市立市民病院の戸倉氏は、病院前におけるECPRの安全性は、病院前ECPRの手技関連合併症率が自施設で行われるECPR合併症率とほぼ同等であることから、今後の病院前ECPRの可能性について報告した。済生会宇都宮病院の藤田氏は、病院前心肺停止に対するECPR該当症例は、全心肺蘇生例の0.3%程度のみしか該当症例はないが、その意義はlow flow timeの短縮でありグローバルケアになる可能性を示唆した。日本医科大学の鹿野氏は、院外心停止患者に対する脳機能の立て直しは現場での治療介入が重要でありその予後は現場でその多くが決定している可能性を示した。
 院外心停止例に対する治療の最終ゴールは、社会復帰率をあげることに他ならない。現場で行う心肺脳蘇生の重要性が確認された。そこには通信指令分析、bystander CPR率などが関わっているだろう。しかしながら、患者の個別化が進むことにより従来のウツスタイン分類による解析は今後困難になっていくかもしれない。

2)蘇生科学の最新エビデンスアップデート -ガイドライン改訂に向けて-

日本蘇生協議会(JRC)の蘇生ガイドラインは、5年ごとの改訂を通じて蘇生分野の発展に貢献しています。次回の改訂は2025年に予定されていますが、近年、ILCOR(国際蘇生連絡委員会)の蘇生ガイドラインである国際コンセンサス(CoSTR:Consensus on Science with Treatment Recommendations)では、5年ごとではなく、2024年にも新たなコメントが発表されています。今回のシンポジウムでは、蘇生ガイドライン作成に関わる分野の専門委員の先生方をお招きし、私たちが知っておくべき最新の蘇生知識について、わかりやすく講義していただく予定です。

3)周産期領域(母体救命と新生児蘇生)と救急領域の協力体制を確立させるには

本学会も参加している母体救命システム普及協議会(J-CIMELS)では、全国規模で母体救命講習会が開催されています。また、日本蘇生協議会では新生児蘇生(N-CPR、Maternal)部会で母体や新生児に関しての医学的な蘇生が検討されています。しかし、妊産婦にとって産科施設の集約化に伴い救急車での搬送距離が延びることで、病院前(救急車内など)でのリスクが増加する懸念があります。母体救命や新生児蘇生を取り扱う救急側のカウンターパートが求められているのが現状です。周産期に関わる救急の諸問題の抽出を行い、周産期救急(母体、新生児)の課題と対応策、病院前、病院診療、地域問題の包括的な対応を検討します。本学会に周産期関連の委員会を設立し、救急医療における周産期の課題解決を進める可能性についても議論します(総務省消防庁、厚生労働省からのオブザーバー参加予定)。

4)救急診療におけるタスクシフト/シェアの現状とその先を考える ~アウトカム向上を目指して各職種にできること~

一般診療においては、働き方改革の影響で医師から各職種へのタスクシフト/シェア(TS/S)が進められています。しかし、救急診療では人員の不足の影響もあり、目に見える形でのTS/Sが進展しているとは言えない状況です。本セッションでは、現状の課題を把握するとともに、実際の臨床で医師が求めるTS/Sは何か。なぜ救急診療ではTS/Sが停滞しているのか。そして患者の最高のアウトカムを目指して各職種にできることについて議論し、実効性のあるTS/Sについて、全ての職種で相談しながら議論を深めます。

会場レポート

座長(レビュアー):今 明秀目的】実際の場面で医師に求められるタスクシフト・シェアー(TF/S)は何か、停滞している原因は何か、最高のアウトカムを目指すために多職種でできることはなにか。これらをテーマに8名が登壇した。発表内容】1 三次救急施設医師の岡本医師は、高齢者の肺炎や尿路感染などの救急入院患者数が増え、救急医にとって出口問題が負担となってきた。救急総合診療科を新設したことで転院退院調整中の患者を医師とMSWが引き継いでくれた。2東京都医師会の森村医師は、救急関連業務の担当業種の現状を調査した、説明と支援は医師に偏向していた。救急隊電話対応と他部門調整は職種分散度が高かった。3三次救急施設医師の須田看護師は、自施設ではTF/Sが進んでいる。しかし救急看護師の負担が増え、意欲が落ちる場面もあった。4田中研修医は、TF/Sが停滞しているのは、病院救急救命士の業務を研修医が理解していないから。偏向が大きかった文章作成、紹介状作成、ACP のTF/Sに救急救命士は意欲を持っている。5二次救急施設の吉永医師は、病院救急救命士によるTF/Sを推進し病床当たりの救急応需率が一般施設の2倍以上となった。6宮保診療放射技師は、生命予後に関わる緊急性の高い異常所見を見つけた場合は速やかに医師に報告することが進んできた。夜間緊急読影ができない施設が50%以上ある現状から医療安全につながる。7川島薬剤師は薬剤情報聴取などで、質の高い薬物療法につながることを述べた。8兒島臨床検査技師は、臨床検査技師へのTF/Sは低いと述べた。POCTや採血業務に伸びしろが期待される。議論】フロアと演者の議論では、TF/Sに関わる職種はMSWを含めて多岐にわたる。分散度の高い業務でTF/Sが進みやすいことが予想される。看護師に余力がないままにTF/Sを進めると、看護の専門性が必要とする精神的ケアなどが犠牲になる可性があり、看護師の意欲を失うことになる。医師に業務偏向が強かった文章作成、紹介状作成、ACP について救急救命士はTF/Sに意欲を持っている。結論】多職種がTF/Sに前向きである。その結果医師の負担軽減だけでなく医療の質の向上と医療安全につながることもある。

5)傷病者の意思に沿った心肺蘇生の中止 ~救急隊のDNAR対応~

2017年、本学会は「人生の最終段階にある傷病者の意思に沿った救急現場での心肺蘇生等のあり方に関する提言」を発表しました。これにより、多くの地域で傷病者の意思を尊重し、一定の条件下で救急現場での心肺蘇生を中止する対応が可能となりました。しかし、この運用手順や実施上の課題について、地域間で十分な情報共有がなされていません。本セッションでは、各地域の実践事例と課題の共有、DNAR対応における運用上の課題、傷病者の意思尊重を実現するための未来像などについて、医師、看護師、救命士などと意見交換を通じて新たな対応の可能性を模索します。

会場レポート

座長(レビュアー):永野 義武  6人の演者からそれぞれの地域、施設での取り組み状況について、策定したプロトコールや具体的な事例を交えての発表があった。本人の意思確認のために書面の提示の要否、かかりつけ医に連絡がつかない場合のMC医師による心肺蘇生中止指示の可否、BLS無しでの病院搬送の有無など、施設、地域ごとの差が明らかになった。会場との意見交換も活発に行われ、未だに対応方針が定められていない地域において検討を進めるうえでの論点整理としても有意義なシンポジウムとなった。

6)急性薬物中毒患者への多職種での介入 ~最高のアウトカムを目指して~

急性薬物中毒に対する病院前からの介入では、救急隊による事前情報に基づいて診察、検査、治療が行われています。しかし、近年では中毒原因物質の多様化や過量服用の背景が複雑化し、早期認識が困難なケースが増加しています。本セッションでは、中毒患者対応の現状と課題、多職種の役割分担と連携の重要性、多職種連携によるアウトカム向上の可能性について議論できればと思います。新たな連携体制を模索し、最高のアウトカムを目指しましょう。

会場レポート

座長(レビュアー):山口 均  他職種の発表でした。大変有意義なシンポジウムでした。臨床救急医学会ならではの演題です。惜しむらくはディスカッションの時間が短かったことです。会場は立ち見が出る程盛況でした。

7)救急外来における薬剤師業務のこれから ~多職種連携による最高のアウトカムを目指して~

救急医療における薬剤師業務は新たに救急外来へと展開されていますが、業務標準化と薬剤師の資質確保が喫緊の課題となってきました。日本病院薬剤師会と日本臨床救急医学会は、救急認定薬剤師制度設立時より連携しており、今回、「救急外来における薬剤師業務の進め方」が共同で作成され、大幅改訂されたテキスト第3版が発刊されました。さらに、薬剤師研修体制の整備が進んでいる状況にあります。救急外来でのアウトカム向上を目指し、医師や看護師とともに薬剤師業務のこれからについて議論を展開しましょう。

8)救急医療チームと院内スタッフの連携強化で院内急変に挑む ~その体制と教育の重要性について~

救急医療チームは高度な蘇生技術を有していますが、院内急変は複雑な要因が絡み合うため、単独対応には限界があります。院内全体でチーム力を発揮するためには、救急医療チームを中心とした意識改革とスキルアップが不可欠です。本セッションでは、院内急変対応における救急医療チームの役割、院内スタッフの教育や体制整備の方法、質の高い医療提供に向けた具体的な方策などを院内全体での連携強化を中心に議論します。

9)救急救命士の職域の垣根を越えて創造する将来像 ~日本救急救命士会の役割と使命~

救急救命士は消防、自衛隊、海上保安庁、医療機関、民間機関、教育機関など多様な職域で活躍しています。今後は多職種連携や地域社会への貢献、さらには国際的活動を視野に入れ、未来の救急救命士像を創造する必要があります。本セッションでは、救急救命士の様々な職域を超えた新たな可能性を探り、日本救急救命士会が果たすべき役割と使命を共有します。専門性の向上と職能発展の可能性、全国規模での連携や教育体制の強化、制度改革の必要性について議論します。救急救命士が国民の信頼と期待に応えるための道筋を描く第一声の場といたします。様々な環境で働く救急救命士のみなさんや関連する職種から一言いただければと思います。

10)救急医療基本法の制定に向けた取り組み

救急医療の課題(搬送時間の延長、救急車の受入困難、地域間格差の拡大など)が深刻化しています。抜本的な解決策として、救急医療対策基本法(仮)の制定を求める声が高まってきています。この法制化により、救急医療の安定財源確保、人材育成、体制整備が期待されます。しかし、法制定の必要性が救急医療関係者にさえ十分に認知されていないのが現状です。本セッションでは、基本法制定の必要性と目的、法制定により期待される効果、制定に向けた具体的課題を議論します。本セッションにおいて法制定への共通認識の醸成の機会と期待しています。

会場レポート

座長(レビュアー):横田 裕行  地方独立行政法人神奈川県立病院機構理事長の阿南英明先生に「救急医療基本法の制定に向けた取り組み」の講演をいただいた。約17年前に日本救急医学会は救急医療対策基本法の制定に向けて活動を行ったが、様々な事情で中断を余儀なくされた。そのような中、新型コロナ感染拡大、医師の働き方改革への対応の中で、2023年に日本救急医学会は「救急医療基本法特別委員会」を設置した。同委員会の議論の中で、新興感染症感染拡大や大規模災害等で救急医療サージが発生した際のメディカルコントロール協議会に救急医療調整機能の付与や超高齢社会における新たな救急医療体制を構築するために救急医療基本法制定の必要性が認識され、法律の専門家、国会議員等への働き掛けを行っている。

パネルディスカッション

:会場レポートあり
1)EXPO 2025 大阪・関西万博の医療救護体制

2025年4月13日から10月13日までEXPO 2025 大阪・関西万博が開催されます。この大規模なイベントに向けて、医療救護体制の整備が重要です。会場内での医療支援だけでなく、重症患者を会場外の医療機関へ搬送するための連携フローの確立が求められます。また、必要な医療資機材の準備、救急車やヘリコプターによる搬送ルートの設計、さらには災害時への備えも欠かせません。国際イベントであるため、医療用語の翻訳や通訳、多言語対応の準備も必要です。さらに、入場者の健康チェックや感染症対策、テクノロジーやイノベーションの活用、一般市民やボランティアのトレーニング体制整備課題です。こうした課題について、医療従事者による講演を通じ、大規模イベントでの救急医療や災害医療体制を検討する学術連合体との連携などとの関わりを含めて議論を深め、今後の日本のイベントにおける医療救護体制の方向性を模索します。

会場レポート

座長(レビュアー):織田 順  万博開催から早2か月半となり、会期半年の折り返し時点はもうすぐです。というものの、本格的な暑さ、救急需要の高まり、豪雨雷雨等の夏の気候リスクなどまだまだこれからと言えます。
 この万博医療に向けて、万博医療救護協議会がていねいに行ってきた準備や、開催期間に入ってからの実際については、本会当セッションで初めて関係者により講演、討論されました。
 座長はともに万博医療救護協議会の大阪公立大学救急医学の溝端康光氏、大阪大学救急医学の織田順氏により進行されました。演者は全員が協議会の構成員で万博医療の策定に中心的にかかわってきたメンバーで構成されました。
 まず大阪大学救急医学の織田順氏からは「近年のマスギャザリングイベント対策から考える,大阪・関西万博医療のくみたて」として、前回2005年の愛・地球博の医療体制を踏まえた上で、さらに近年のニーズ、特に感染症対策、熱中症対策、有事対応等を満たすためにTOKYO2020の医療体制の考え方を取り入れた、危機管理センターCMOを要とした医療体制、また会場内医療とともに会場外の救急医療需要のモニタリングについて現時点でのデータが示されました。
 公益社団法人大阪府看護協会の桑鶴由美子氏からは「関係団体の立場から大阪・関西万博の安全・安心な運営を考える」として、予測患者数からの応急手当所、診療所の配置と必要スタッフ数、その診療の原則などの具体的な策定内容と、開幕してからの運営状況などについて報告されました。フロアからは医療スタッフの雇用、あるいは協定の実際についての質問がありました。溝端座長からは救急医、DMAT隊員資格を持つ医師が常に居るような協定と配置について説明され、織田座長からは近年の働き方改革に鑑みた宿日直許可と勤務館インタバルへ配慮した勤務形態としていることが補足されました。
 大阪市消防局の塩谷壮史氏からは「大阪・関西万博における大阪市消防局の対応」として、想定傷病者数から体制を組み立てていったこと、現在のところ傷病者数が想定を上回っていないこと、危機管理センターに隣接する万博消防センターと万博会場外から移動配備する救急隊の運用の実際について報告されました。今後の救急需要の増大への対応が鍵となることがあわせて説明されました。
 万博医療救護協議会運営検討分科会長で大阪九世紀総合医療センターの藤見聡氏からは「2025大阪・関西万博における多数傷病者対応について」と題して基本的には平時の多数傷病者対応に準じた対応ではるが、万博固有の要素である会場内のエリア設定やドッキングポイントを勘案して構築したこと、開催までに対面型の事前研修を3回,現地での実動訓練を1回行った経験が紹介されました。
 国立病院機構本部DMAT事務局の若井聡智氏からは「2025日本国際博覧会における賓客対応」として、まず万博期間中はほぼ連日がどこかの国のナショナルデーとなっており当該国からの賓客の訪問がある旨が説明され、さらに賓客区分や識別方法、診療上に特に配慮する点や会場外での対応病院の設定などにつき国際儀礼に則った計画が綿密にたてられていることが報告されました。
 いずれも、綿密な計画と、開幕後の軌道修正とその記録がしっかりと行われており、のちのイベント対応の際には非常に質の高い参考事例になることが期待されます。
 特別発言として東洋大学情報連携学学術実業連携機構の森村尚登氏からはご自身が手掛けたTOKYO2020の医療体制で基本の柱となった、「会場内の医療」「会場外の医療」「有事の際への対応」の3つを十分に対策することの大切さから紐解き、TOKYO2020とパリ五輪のデータを示していただきつつ、EXPO2025大阪・関西万博ではこれらがとても意識された体制になっていることと、特に会場外医療についてのデータは貴重なものになるのでしっかりと結果をまとめて欲しいとのコメントと激励をいただきました。

2)「特定行為研修修了看護師」や「診療看護師(NP)」と医師の働き方改革

看護界では、1995年以降、一定の教育課程や研修を修了した「専門看護師」「認定看護師」「診療看護師」「特定行為研修修了看護師」といった資格を持つ看護師が活動しています。これらの資格を持たない看護師と何が違い、どのような業務が可能で、どの範囲ができないのか。また、医師の働き方改革にどこまで貢献できるかが期待されています。協働する職種の理解状況や裨益者である患者への貢献について、それぞれの立場から現状を述べていただきたいと思います。

3)救急専門薬剤師の薬学的介入のポイント ~最高のアウトカムを見据えた介入~

米国では、薬剤師が救急医療の薬剤介入においては中心的役割を担っています。日本では救急認定薬剤師が救急医療現場で様々な介入を行い、良好なアウトカムに関与してきました。2023年から救急専門薬剤師制度が開始され、より専門性の高い薬剤師が救急医療の現場で活躍することが期待されています。本セッションでは、救急専門薬剤師による薬学的介入が患者アウトカムに与える影響について、自身の施設の経験を共有いたします。Edgeを走る薬剤師の皆さんのみならず、さらなるアウトカム改善のためにはどのような薬学的介入が効果的なのかについても討論を発展できればと思います。

会場レポート

座長(レビュアー):安藝 敬生  臨床、教育、研究の3本柱において救急「専門」薬剤師が「認定」薬剤師、「担当」薬剤師と異なりどのようなアウトカムを創出できるかという議論をすすめたが、今回のディスカッションにおいて明確なものは示せていない。具体的には臨床においてはやはりその症例介入時の視点と、患者アウトカムの改善につながったか否かの具体的データが不足しており、研究においては業務のまとめが散見され、専門だからこその視点である新規性・臨床的重要性という点で他職種にも活用可能なアウトプットが少ない。教育においては、これらの課題をまずは専門薬剤師が実現してからこそのこの過程をどう指導していくかが重要である。このような点を共有、認識、整理できた機会は非常に貴重であり、次回の学術集会においてこの1年での変化と取り組みを継続して議論したい。

4)地域の救急医療体制全体を評価するための評価指標作成のこころみ

救急医療体制の改善には客観的評価指標が不可欠です。しかし、救命救急センターの充実度評価など、既存の個別機関の評価指標では地域全体の実態把握が困難です。当委員会では、2023年より、医療機関・消防機関・行政の連携を基に、地域全体を包括的に評価する指標の策定を進めています。本セッションでは、評価指標案、作成過程での議論、課題について会員の皆様と共有し、医療計画や診療報酬への反映を目指す取り組みについて意見交換を行います。地域全体の救急医療体制のさらなる向上が期待できます。

会場レポート

座長(レビュアー):田邉 晴山討論内容
演題①について  各施設の自己評価では実態を正確に評価できない可能性が指摘され、外部評価の重要性が強調された。長野県において評価結果に基づき救命救急センターの再編を行った報告が多くの関心を集めた。
演題②について  救急搬送受け入れ円滑化には、一日のうち短時間で発生する救急需要のサージへの対応が重要であり、その「見える化」が重要であるとの認識が共有された。
演題③について  個々の医療機関の評価を行うだけでは、地域の全体最適の改善には結びつかない点が強調された。全体討論
 救急医療体制の改善には現状測定が不可欠である点、アウトカム指標がプロセス指標やストラクチャ指標と比較して質の高低を明確に示すため重要である点、ただしアウトカム指標も適切に数値を構築しなければ良い指標とならない点が確認された。測定すべき項目は概ね明確になっているものの、測定方法や数値評価については課題が多く、指標開発には長期的取り組みが必要との共通認識が得られた。

5)患者安全検討推進委員会企画「RRS運営」 ~多職種によるRRSの運営からベストプラクティスを共有しよう~

Rapid response system(RRS)は、現在、救急、集中治療領域の学会では必ず、取り上げられ、聴衆が溢れるテーマです。特に、「誰が」「どのように」運営しているのか、「立ち上げの苦労または、うまく行った例」を聞きたいというリクエストがよく聞かれます。特に、施設ごとのRRS体制(人員、仕組み、機材など)が異なるため、必ずしもある1施設の方法が全国にそのまま導入できるとは限らないのが現状です。だからこそ、多くの施設の経験を共有し、類似した仕組みや、人員、機材などを参考にしてもらうことで、我が国のRRSはさらに発展すると考えられます。本パネルディスカッションでは、委員会から現在の欧米で示されているRRSの考え方、レジストリの意味などを話題提供します。その後、RRS運営(4つのコンポーネント:起動、対応、評価、管理)について、規模の異なる施設で、うまく運用できている施設の方々にパネルとして発表していただきます。RRS立ち上げから運用、評価について、ディスカッションしましょう。METとは異なり、多職種RRTが増えている現状などが明らかになるのではないでしょうか。当委員会では、今後さらにRRSを患者・家族にも知っていただき、ACPなどにも繋がる広報活動を視野に入れています。しかし、まだまだ病院内での周知や、実際の評価・管理は発展途上と考えられるので、今後、施設の大小に関わらず、多職種で運用するRRSを当学会として広げ、特にRRTとして活動するスタッフ、要請者の教育を促進していきます。

6)救命救急センターで活動するメディエーターの現状と課題

「入院時重症患者対応メディエーター」は、重症患者が入院する際に、医療チームと患者またはその家族とのコミュニケーションを調整から治療方針について説明、必要な対応を調整する専門的な役割を担う医療従事者です。職種は、看護師、社会福祉士、公認心理師、薬剤師などで共通することは重症例に対する診療内容について知識をもったスタッフが担当しています。救命救急センターで勤務するこうしたメディエーターからは職種の違いによる異なったアプローチがきっとあると信じています。救命救急センターで勤務している各職種のメディエーターの現状と課題を議論してみたいと思います。

会場レポート

座長(レビュアー):鈴木 寛代  本演題では、救急・集中治療の現場で「入院時重症患者対応メディエーターとして」活躍する公認心理師・ソーシャルワーカー・看護師に各職種の視点から、現状と課題が共有された。これまでも入院時重症患者対応メディエーターは誰がどこまで担うべきなのかという議論が様々な場所でなされてきた。当日の総合討論では、メディエーターという役割はいずれの職種においても担いうること、さらにはそれぞれの専門性が異なることによる強み・弱みがあることが明らかとなった。したがって、病棟を含めた多職種チームで協働できる体制づくりが求められていることが改めて確認された。
 今後とも、各施設が院内体制の構築や見直しを進める中で、現場の知見や実践を持ち寄り、議論していくことが求められる。

7)小児病院前救護に関わる教育コースの現状と課題

小児が関連する教育コースにはPPMEC, PALS, JATEC, JPTEC, JTASなどがあります。現実に重篤小児の案件の頻度は少ないのですが、一度経験するとその対応に苦慮し、問題解決がなかなか完結できない現状があります。重篤小児の急性期医療に関わる教育コースが小児傷病者に対してどうあるものなのかを中心に一同に介して現況と課題を共有できればと思います。

会場レポート

座長(レビュアー):問田 千晶  小児病院前救護に関する教育体制について、制度・現場・教育コースの3つの視点から現状と課題を整理し、6名のパネリストとともに議論を行った。
 小児の病院前救護の質を高めるには、教育体制の充実が不可欠である。以下の3点が主な課題として挙げられた。
1. 教育コンテンツの充実
 小児対応に特化した新たな教材を一から作るのではなく、成人傷病者への対応で培われた知識や技術を基礎とし、それに小児対応のノウハウを加えた形の教育が求められる。さらに、いつでも手軽に学べるオンデマンド教材など、負担の少ない学習手段の活用も重要である。
2. 組織としての教育体制の整備
 現在は個人が自主的に受講する形が多く、金銭的負担や勤務時間外での対応が課題となっている。消防などの組織単位で教育を導入し、カリキュラムに組み込むことで、受講者の負担軽減と教育の継続的提供が可能になる。
3. 地域MCを活用した教育の普及
 小児の病院前救護は、病院内診療と切れ目なく連携する必要がある。そのため、小児傷病者に関わるすべての職種が、共通の標準化された教育を受けることが望ましい。地域のメディカルコントロール(MC)体制を通じた教育の普及が、現場全体の対応力の底上げにつながると考えられる。

8)こどもの事故予防と救急対応の教育:家庭や学校での啓発活動

こどもの事故予防に向け、家庭や学校での教育や啓発活動が進められてきましたが、保護者や教育者の知識不足や実践的な対応スキルの不足が課題として挙げられます。本セッションでは、事故予防の啓発内容や救急対応の実践的教育プログラムの効果、地域全体での取り組みについて議論します。今後は、子どもを取り巻く環境全体での安全意識向上を図り、持続可能な教育体制の構築と、事故発生時に迅速かつ適切な対応ができる社会の実現を目指します。誰が、いつ、どこでこうした教育を行えばいいのでしょうか。いつどこで起こるかわからないこどもの事故をゼロにするために名案をお待ちしております。

会場レポート

座長(レビュアー):永野 義武  子供の事故予防や救急事故対応に関し、5人の演者から多岐にわたる取り組みについての発表があった。学校教員を指導者とした救命講習の推進や子供に対するTelephonCPRシミュレーション、自傷・自殺未遂の疫学調査、虐待予防、インスタグラムを活用した普及啓発など、こどもを取り巻く様々な課題に対し、いずれも効果的な取り組みであり、フロアの参加者とも積極的な意見交換がなされていた。

9)救急医療の薬剤師業務のポイント

救急医療では、医療機器を使用しながら薬物治療を行う場面が多くあります。しかし、薬剤・医療機器との相互作用、薬物投与量、投与方法、医療機器の設定などは一般病棟とは異なる場合があり、施設ごとにルールも異なるのが現状です。本セッションでは、医療事故を防ぎ、安全な治療を行うためのポイントを発表いただきます。職種は問いません。安全性の高い救急集中治療を実践できるように皆さんで工夫していきましょう。

会場レポート

座長(レビュアー):佐藤 智人  薬剤師における救急外来の取り組み(3演題)。業務体制はオンコールまたは常駐と各施設において違いはあるが、常駐することで対応件数の増加や医療安全・経済的な有用性、タスクシェア・シフトにも繋がっている。薬剤師が介入することで有用な症例報告が各施設から発表された。早急な薬歴確認、薬剤選択、薬剤調整、投与量計算などの介入事例があった。
 大学教育における救急医療講義の実践と課題。薬学教育モデルコアカリキュラムでは救急医療における医療チームでの薬学的管理の実践が謳われているが、詳細なことは書かれておらず、各大学教育に差がある。薬物中毒に関する講義と演習の取り組みが紹介された。今後の薬剤師の救急医療におけるアウトカム向上のためには全国で学部教育が進むことが望まれる。
 ECMO管理中の抗菌薬は通常投与量で本当に良いのか? ECMO回路内(主にチューブ内)への吸着において薬物血中濃度低下のデータが示された(フェンタニル、ボリコナゾールなど)。チューブ内の吸着については製品の種類に応じて差がでることも示された(モルヒネ)。V-VとV-Aでの違いについて討議があったが今後の検討となった。
 救急集中治療領域における医療機器使用下の最適な腎機能評価。血清クレアチニンに基づく推算式は筋肉量が低下した患者では精度の低下が示された。入院期間が長くなるほどその乖離は有意なものとなる。制度の高い腎機能評価のためにInBodyを用いて筋肉量を評価し、腎機能との関連について検討された。
 薬剤師による医療機器使用かの薬物療法最適化:カテーテル管理に焦点を当てて。カテーテルの留置は感染だけではなく血栓症も課題である。カテーテル関連血栓症(CAT)はICU患者の約17%に発症し、静脈穿刺後4日以内に半数が発症すると報告があった。薬剤師は、薬物療法の最適化と併せて、カテーテルの適応や使用期間の評価、内服薬への切り替え支援を行うことで、医療資源利用を適正化し、CATの予防に貢献できる可能性がある。

10)法執行機関との医療連携の現状の報告と課題 ~さらに発展した連携を構築するために~

2023年より海上保安庁を対象に事態対処救護試行コースを開始し、その後、警察官にも同コースを開催してきました。現在のコースは心肺蘇生におけるBLSのような位置付けであり、各機関内で広く普及するための課題があります。また、事態対応にあたる人員に対する発展的なコースおよび教材開発のニーズが存在していることがわかってきました。このセッションでは、現時点での法執行機関との医療連携における現在の課題、さらには実際に医療連携を機能させるための取り組みやシステム等を広く議論します。本邦において法執行機関との医療連携が時と場所を選ばず連携するための方策に関して議論を深められればと考えております。

11)救急外来への臨床検査技師の参画を難しくしているのは何か

救急外来への臨床検査技師の参画は希望者が多い一方、体制や考え方が壁となっています。参画に理解が得られるようなアプローチ、取り組みについて議論を行い臨床検査技師が救急外来で輝く姿を模索できればと思います。

会場レポート

座長(レビュアー):西内 辰也  「チーム医療」、「多職種連携」の必要性や有用性については論を待たないであろう。しかし、それらをいかにして実践・推進・浸透させるかについては、多くの医療機関が悩み模索されているのではなかろうか。今回のパネルディスカッション(以下、PD)の目的は、臨床検査技師が医療チームの一員として救急外来で救急医療に参画することの障壁を、4名の演者と聴衆とのディスカッションにより解き明かすことであった。
 臨床検査技師が救急外来業務に参画する第一の障壁が「人員確保」であることは、すべての演者で共通した見解であった。新たな業務の追加は既存業務への影響が避けられず、二の足を踏むことは想像に難くない。
 一方、人員が確保されるだけでは、臨床検査技師が救急医療に参画できるわけではない。演者らが次に挙げた課題は、臨床検査技師の救急医療に関わる「知識と経験不足」であった。臨床検査技師の教育課程に救急外来での実習は組み込まれておらず、知識と経験がない状態で救急外来に配属される臨床検査技師の不安は、容易に理解できる。
 それでは、人員が確保され、必要な知識を習得すれば、臨床検査技師は救急外来業務に参画できるであろうか? この疑問に対する答えとしての演者らのメッセージは、「検査室内における救急医療参画への理解」、「検査室における意識改革」、「検査室中心の文化からの脱却」と表現は異なるも、“自己変革こそが救急医療参画への推進力となる”、というものであった。ひと・もの・環境が満たされているにもかかわらず、変革を妨げている理由が職場文化や習慣であることは往々にしてあり、厄介なことに、それらを変えることは容易なことではない。過去にしがみつかず、未来志向で職域を拡大すべきという演者らのメッセージを聴いた聴衆は、臨床検査技師としてのアイデンティティを再考し、自身の組織文化をも考え直す絶好の機会を得たはずである。”脱皮できない蛇は滅びる”というニーチェの言葉を、我々医療者は常に肝に銘じておかねばならない。
 今回のPDの総括として、「臨床検査技師は、救急医療の現場において何を期待され、何を提供できるのかを自問自答し、自ら救急医療の現場へと赴き、他職種と相互理解を深め、自身の職域の認知度を向上させることが救急医療参画への第一歩である」ことを記し、本文を締めくくりたい。

12)病院前での感染対策はどこまで進んだか

「救急隊の感染防止対策マニュアル」発出から5年が経過しました。この間COVID-19感染拡大もあり病院前の感染対策は大きく改善しています。しかしながら、医療機関との連携不足や行き過ぎた感染対策による弊害など、課題も多く見受けられます。本セッションでは、消防機関だけでなく病院前診療や救急外来診療を行っている立場からも意見を集め、病院前で必要とされる感染対策について論議したいと思います。

会場レポート

座長(レビュアー):森田 正則 1:澤田 仁(京都橘大学健康科学部救急救命学科)
「消防機関の感染対策におけるオンラインチェックリストの活用」
 救急隊の感染防止対策向上を目的に、オンラインチェックリストが開発・運用された。チェックリストの活用により、組織と現場実務者との間で、手指衛生のタイミングや個人防護具(PPE)の選択・取り扱いに乖離が存在することが明らかとなった。また、N95マスクのフィットテストや気管挿管時のビデオ喉頭鏡の使用など、一部の感染対策における実施不足も確認された。 2:小橋 大輔(前橋赤十字病院)
「COVID-19パンデミックを経て、病院前救護活動における感染対策はどのように変化したか」
 搬送件数の増加に対し、消防職員数(特に救急救命士以外)の増員が追いついておらず、限られた人的資源で業務を遂行する現状は、感染対策の遵守を困難にしている。感染対策マニュアル作成に医師が関与している割合は、2016年の18.7%から2024年の22.5%へと微増しているが、依然として低水準にとどまり、医学的根拠に基づくマニュアル整備の必要性が指摘される。定期的な研修実施率は15.6%にとどまり、医療機関に義務付けられている年2回の研修と比較しても不十分である。曝露事故対応マニュアルの整備率も約7割にとどまり、全国規模のサーベイランスシステムの構築が求められる。また、24時間対応可能な医療機関との連携体制も依然として不十分な状況にある。 3:椎野 泰和(川崎医科大学)
「救急隊と医療機関の感染対策連携をどのように進めればよいか」
 標準予防策の定着により、マスク・手袋の着用や手指衛生の徹底が進み、接触感染(MRSA検出率の低下)や飛沫感染に対する意識と実践は向上した。しかし、COVID-19の5類移行後には感染対策の緩みが一部に見られ、今後の流行再燃やインフルエンザ等の感染症流行の波及が懸念される。 4:中田 啓之(京都市消防局)
「新型コロナウイルス感染症流行期における感染防止対策が心肺停止傷病者に与えた影響について」
 COVID-19流行期には、フルPPEの着装に伴う準備時間の増加などにより、現場到着時間・活動時間・病院収容までの所要時間が延長した。また、一部の特定行為において実施の遅延が認められた。しかしながら、こうした遅延にもかかわらず、社会復帰者数および30日後の生存率に顕著な悪化は見られなかった。 5:細田 優子(横浜市消防局)
「COVID-19パンデミックを経て横浜市消防局における感染対策の現状」
 ダイヤモンド・プリンセス号対応時の事例をもとに報告する。未知の感染症への対応やPPEの長時間着用による身体的負担、感染リスクに対する不安などが活動隊員に大きな心理的ストレスをもたらした。

総合討論:主な提言事項
救急隊感染防止対策のオンラインチェックリストの継続的活用とデータ蓄積 消防機関における感染防止対策マニュアルへの医学的監修の強化(救急医・感染制御専門家の関与促進) 組織と実務者間の感染対策認識の乖離を是正するための教育プログラムの実施 N95マスクのフィットテストやビデオ喉頭鏡の使用など、特定感染対策の実施率向上 曝露事故対応における24時間対応可能な医療機関との連携体制の構築 消防機関における曝露事故の全国規模サーベイランス体制の構築に向けた検討 医療機関と消防機関間の情報共有インフラの整備(事前通報、曝露後の情報提供など) COVID-19対応で得られた標準予防策の継続的な実践と定着化 新興感染症発生時の救急活動プロトコル(PPE選定、活動時間短縮策等)の策定および訓練 地域MC協議会を通じた医療機関と消防機関の連携強化(顔の見える関係構築)

13)初期診療後の救急患者転院搬送調整に対する取り組み

救急患者連携搬送料の新設が令和6年度の診療報酬改定より開始されました。重症患者を受け入れる地域の基幹病院では、空床を作り救急搬送患者を円滑に受け入れるため、入院は必要であるが中等症の患者を早期に転送転院させる必要があります。転院のコーディネートが円滑に進むための専任担当者にはMSWが候補となるでしょう。各施設におけるいわゆる“下り搬送”の取り組みにおける工夫を紹介ください。医師、看護師、院内の救命士などの職種が調整を行なっている施設でもご報告をお待ちしております。

会場レポート

座長(レビュアー):山上 浩  救急搬送数の増加と受入集約化が進む中、消防機関に依存せず高次医療機関の機能を維持する転院搬送体制の構築が喫緊の課題である。救急救命士が転院調整や搬送を担うことで、医師の業務負担軽減や効率的な搬送が期待される一方、人件費や人材確保の面で導入が困難な医療機関も多い。MSWが調整を担う体制や、事務職とのタスクシェアの事例も報告された。アンケート調査では、消防機関は否定的な意見が多いのに対し、医療機関側はやむを得ず依存している実態も浮き彫りとなった。地域毎に課題は異なるため、地域特性に応じた多職種協働と、医療機関同士の対話が不可欠である。

14)PEMECコースをより実践的なコースにするための工夫

内因性疾患に対する病院前の救急隊評価の教育コースとしてPEMECが全国展開されています。その中には、内因性ロードアンドゴーといった表現で、緊急度の高い病態認識を促している。しかしながら、内因性疾患の場合には、全てがロードアンドゴーにより救命救急センターに搬送されるものではないことが明確となってきた。こうした概念理論と実際との解離を埋めるために少しずつコースでは工夫を加えてきた。こうした教育コースを実践に活かす工夫について討論してみたい。

会場レポート

座長(レビュアー):八坂 剛一、角谷 直人目的
 本パネルディスカッションは、各地のPEMECコースで主体的に関わっている演者の方々に、コースで行われている取り組みや課題となっている事項について発表して頂き、PEMECコースをより実践的なコースにするための一助とする事を目的とした。発表内容
各地のコース開催について  北海道や九州など、これまで、開催に至っていなかった地域においても、PEMECコースの拡がりを見せている。
 コースを開催する際、指導者不足が問題となるが、核となる地域で開催を重ね、指導者を育成し、各地域での開催に繋げている事が示された。
 一方で、地域によっては「若い世代の受講が少ない」、「積極性のある指導者に負担が偏っている」といった問題に直面している。
 解決策として、受講費の公費負担枠の増加、指導者については子連れでの参加も可能とする体制作り、次世代への継承が進められている。
指導者の育成について  PEMECコースでは、コース受講後にインストラクターコースへの参加を要することなく、指導者(インストラクターキャンディデイト)としてコースに参加することができる。
 指導者としてコース参加し易いこの制度は、若手が参加することのハードルを下げるという効果が期待される。
 他方、受講者の多くが指導者になる事を希望するため、コースに参加する指導者の割合が高くなり、指導者一人当たりの指導機会が少なくなるという課題が生じている。
 指導者の質を担保する方策として、コース前日の事前勉強会や指導者グループメールの積極的な活用、ブース毎に医師の指導者を配置し、医学的な質の担保を図る、といった取り組みが示された。
PEMECコースと内因性プロトコル策定について  PEMECコースは消防庁から発出されている緊急度判定プロトコルに沿った内容である。中部地方においては、内因性疾患に対するプロトコルの策定(ルール作り)が進んでおり、救急活動の均質化、円滑な活動に寄与すると共に事後検証の根拠となっている。また、定められたルールを適切に運用するための教育ツールとしてPEMECコースが開催され、地域MCの活動能力向上に寄与している。
 石川県においては、内因性プロトコルが2009年に策定され、以降、定期的な改定を経て、現在は「初期評価/内因性プロトコル」と改称し、PEMECアルゴリズムに近い内容となっている。石川県で開催されたPEMEC受講者からは既にプロトコルが策定されているため、改めてPEMECを用いて教育することに対して懐疑的な意見も少数ながら見られた。
病院側のPEMEC概念の浸透不足について  富山県で行われたPEMECコースを受講した救急救命士、医師、看護師を対象に行ったアンケートによると、内因性ロード&ゴーに該当すると判断された症例であったにもかかわらず、PEMECアルゴリズム通りの活動ができなかったと回答者の約50%が回答した。その理由として、病院側のPEMEC概念の浸透不足が挙げられた。JPTECに比較してもPEMECの認識は明らかに低く、今後、PEMECの概念を浸透させるためには、医師・看護師の受講者数を増やす事や地域の病院事情を織り込んだ内容にアレンジすることを検討するべきであると示された。会場で聴講されていたPEMEC企画運営小員会の髙松純平委員長より
(指導者の質を担保する方法に関連して)
 「年一回程度、今回の学会などのような機会に、指導法や内容について共有する機会を作れると良いと考えており、今後、検討していきたい」とお示し頂いた。座長による総括
 「今後も慌てずに質を高めながら、各地でPEMECコースを盛り上げていきましょう」と本セッションを総括し、閉会する。

ワークショップ

:会場レポートあり
1)ICLSブラッシュアップセミナー「新しいコンテンツを用いた成人教育」

ICLSが開始されてから20年以上経過いたしました。その間に社会は大きく変化し、教育に用いるデバイスや手法にも様々なものが登場しています。今回、従来から用いられる手法に工夫をしている指導者、新しいコンテンツを用いた指導をしているスペシャリストに集まっていただき、そのノウハウを披露していただきます。

会場レポート

座長(レビュアー):邑田 悟  成人教育に関して、新しいコンテンツを用いた教育を提供している方にお話をいただいた。VRや生成AI教材を用いた事前学習、事後学習。メタバースを用いた指導側のスキルアップ。ICLSを教えつつ別なコースの内容も盛り込んだ、対象者を限定した特化型のコース開催。再教育へのVRの導入など、近年の技術の進歩に合わせた指導をしているディレクターのノウハウの一部が紹介された。ICLSの第6版テキストにも新しいコンテンツを盛り込む計画であることも紹介された。

2)上司も参加してください ~救急医療を支える女子トーク~

救急医療における女性の進出により、女性医療職の役割や貢献を社会で認知され始めています。女性特有の視点や経験を活かし、救急医療の質をさらに高めることが期待されています。様々な女性医療職の皆さんが一堂に会し、情報交換や意見共有の機会を増やし、互いの専門性を深く理解していけるような討論を期待します。職場環境の改善や課題解決。次世代の育成とキャリア支援などにも焦点を当てていただければと思います。上司からの演題応募もお待ちしています。

会場レポート

座長(レビュアー):鈴木 善樹  多職種の女性活躍のための課題について各演者から発表して頂いた。特に女性割合の少ない消防機関の男性からのご質問がありました。多職種の学会なので委員会などがあれば良いと思いました。

3)これでOK救急エコー

救急初療のエコー検査(POCUS、FAST等)は臨床検査技師が担当することで医師の負担軽減、診療の効率化が期待できます。超音波検査は容易である一方、その質が問われることもあります。医師からは救急エコー検査の現状と課題について、検査技師からは救急外来での検査の出向実情をご報告いただきます。救急エコーは、誰が行なったら良いのでしょう。臨床検査技師が、今後の関与をさらに増やすための方策を考えていきたいと思います。

4)救急現場や医療現場におけるカスタマーハラスメントの情報共有

カスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題化するなか、令和6年6月の「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」には、カスハラ対策の方向性が盛り込まれ閣議決定されました。厚生労働省では、労働施策総合推進法にカスハラ対策を追加する改正の検討が見込まれ、今後、カスハラ対策についての検討が加速することが予想されます。これらを踏まえて、救急現場や医療現場におけるカスハラの実情と対策における施設の対応を情報交換できればと思います。医療機関や救急隊等、それぞれの医療現場におけるカスハラ対策の具現化方策の一助となればと思います。

会場レポート

座長(レビュアー):清住 哲郎  救急現場や医療現場におけるカスタマーハラスメントの情報共有をテーマに3名の演者による発表と意見交換が行われた。共有できた認識は以下のとおり。
カスハラと正当なクレームの線引きが大切。具体的に例示し、職員/患者に周知することが必要。 カスハラに関する対応部署を組織として確立することが大切。多くの医療機関では医療安全部署が担当していたが、患者さん相談窓口が担当している医療機関もあった。専属の部署を持つ医療機関は会場になかった。 対応フローの設定、特徴的な患者さんに関する情報をカルテ上での共有できる仕組みが有効。カテゴリー分けして救急外来における対応の方針にまで落とし込んでいる医療機関もあった。 消防機関と医療機関でカスハラ対応について合同の仕組みを持っているところは会場になかった。カスハラ対応に関して正式な仕組みを整備している消防機関は会場になかった。 厚生労働省HPにある教材動画が参考になる。

5)救急医療における医療者と患者・家族の情報提供(コミュニケーション)の重要性

救急医療では、患者の急変や急死に際し家族や関係者にBad Newsを伝えなければならない場面が多くあります。この際のコミュニケーションによっては、患者の代理意思決定に影響を与え、ご遺族となった方々に大きな傷を残すことも報告されています。救急の場で患者および家族に関わる多くの医療者でコミュニケーションについての重要性について自施設の経験から実践的に共有できればと思います。

会場レポート

座長(レビュアー):真弓 俊彦  救急現場では、医療だけではなく、社会状況も加味した対応が必要になる場合が少なくありません。また、開始した高度医療の中止を決断しなくてはならない場合もあります。このような場合に、種々の職種の方が関与することによって課題を解決することができる例を示していただきました。

6)G2025に向けたバイスタンダー体制への提言

わが国のバイスタンダー体制の現状を明らかにし、体制の強化を図ることは大変重要な課題です。バイスタンダーによる応急手当の実施を増やしていくためには、バイスタンダーに対する心的ストレスを含めた様々なサポート体制の現状とその課題が重要です。現在のバイスタンダー体制の現状や課題を、参加される会員の皆様と情報共有や議論を行いたいと考えています。

会場レポート

座長(レビュアー):名知 祥  本WSでは、2025年10月に発表される予定である「JRC蘇生ガイドライン2025」に向け、バイスタンダー支援体制の課題と展望について、様々な視点から多角的に議論が行われた。
 冒頭、座長の名知(バイスタンダー体制検討委員会)より、バイスタンダーの心的・社会的な負担に着目した委員会からの提言2025が紹介された。心的ストレスへの社会的支援の必要性や、地域メディカルコントロール協議会が主導する体制整備、法的保護の明確化などが示された。
 続いて、長野庄貴氏より、自身のバイスタンダー体験とその後の心理的影響をもとに、公的支援の限界や、バイスタンダーの視点に立った支援の必要性が語られた。
 これを受けて本間洋輔氏(千葉市立海浜病院)からは、心的サポートの啓発リーフレットの作成や「バイスタンダーサポート外来」設立の取組が紹介された。
 田島典夫氏(小牧市消防本部)からは、応急手当指導員を対象とした全国WEB調査の結果が報告され、約7割がBLSに関連したストレスを経験していたこと、肯定的に振り返れた者は3割程度に留まるなどの実態が共有された。
 消防の現場からは矢島茂樹氏(佐倉市八街市酒々井町消防組合消防本部)が登壇し、指令員に対する心的サポート意識の向上、講話による感受性の醸成、他機関との連携による支援体制の構築が紹介された。
 教育の視点からは邑田悟氏(岩手県立中部病院/ICLS企画運営委員会)より、一次・二次救命講習会における心理的バリアや誤情報への対応、法的リスクの正確な理解、救命後の支援の重要性が提示された。
 総合討論では、感謝カードだけでは不十分であること、救命講習を受けていない層への啓発、電話以外の支援窓口の必要性などが論点となり、MC単位での全体的な支援体制整備の重要性が強調された。
 「バイスタンダー支援」を現場の声と科学的データの両面から具体化し、今後の体制構築へのさらなる広がりと充実に向けた実りあるセッションであった。

7)救急活動の覚知から病院到着までの時間短縮の取り組み

本セッションでは、救急活動における覚知から病院到着までの時間短縮を実現するための取り組みを議論します。近年、救急出場件数の増加により現場到着時間や医療機関到着時間の延伸が問題となり、それが救命率や患者の転帰に影響を及ぼす可能性を示唆しています。本セッションでは、活動時間の短縮に向けて、覚知から現場到着まで、現場到着から現場出発まで、病院選定の迅速化、また医療機関到着後の診療を円滑化するための現場出発から病院到着までの間の取り組みなど、具体的な解決策を共有します。消防機関や医療機関、地域社会が連携し、救急活動の迅速化と救急医療の質向上を目指します。

会場レポート

座長(レビュアー):福島 史人  WS7のセッションでは、プレアライバルコール、小児や胸痛患者の選定基準、地域システムの工夫や制度的課題まで、多角的な視点からプレホスピタルの現状と未来が提示された。どの発表も、救急搬送の“質と時間”の両立に向けて、実践的で意義深いものであった。発表者の皆様、そして御参加の皆様に心より感謝申し上げます。

8)現場から変える! 救急現場における医療DXの具体的な取り組み

2025年は、電子処方箋や全国医療情報プラットフォームの本格稼働を契機に、医療DXが飛躍的に進展すると予測されます。しかしながら、各医療機関や職種における医療DXへの認識には温度差が見られます。救急医療においては、病院前救護活動から初期診療及び入院診療まで、多職種が連携し、医療DXを活用することで、より質の高い医療サービスの提供が期待されます。本セッションでは、このような過渡期において、具体的な取り組み事例を共有し、救急医療における医療DXの活用による診療の質向上を図る方向性を考えたいと思います。

会場レポート

座長(レビュアー):齋藤 大蔵  WS8は「現場から変える!救急現場における医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の具体的な取り組み」というタイトルの7演題から構成されるワークショップで、6月21日(土)の第3会場で各々の演題が発表されたのち、会場の先生方を交えて活発な討論がなされた。
 第1演題は「救急医療や在宅医療にリアルタイム映像伝送システムを取り入れ速やかな救急対応を目指す取り組み」という題目で市立大村市民病院の野中和樹氏が発表した。北里大学との共同研究であり、リアルタイムに映像共有できるVisual Talkを活用して在宅医療等でエコー画像や心電図などの映像伝達を行うことで種々の効用と病院前医療の変革がなされているとのことであった。また、病院救急車迎え搬送の試用運行等にVisual Talkを活用することで、病院の収益となる種々の診療報酬取得を目指すとのことであった。
 第2演題は「民間二次救急病院群における医療DX推進の取り組み:Patient centric DX system構築に向けて」という題目で社団医療法人社団正志会(ペンギングループ)の森村尚登氏が発表した。都指定二次救急医療機関4病院を含む民間8医療機関の職員にDXの定義とは何かと問うことから始めて、DXを用いた近未来図の動画作成、現場のニーズと近未来図実現に必要な既存システムのリスト化、さらに導入優先度の決定等を既に行い、同病院群の統合的な医療DX推進の試みが披露された。ビジョンとして魅力ある医療変革の試みであり、設定したKPI(重要業績評価指標)への今後の好影響が期待される。
 第3演題は「救急タグは救急搬送時に有用な情報共有ツールとなる -救急タグ配布時アンケートより(第2報)-」という題目で大阪大学医学部附属病院医療技術部の山中健太氏が発表した。大阪大学医学部で開発した救急タグNFCチップを活用して、救急搬送時に傷病者の病歴・共存症や通院先医療機関等をAndroid端末で読みとることで時間短縮効果を目指してきた、今回2018年から2024年までの間に大阪市東淀川区、大阪府豊能町、大阪府吹田市において救急タグを配布した3,726人にアンケート調査を行ったところ、65歳以上の2,379人では通院先医療機関数が平均2.08件で、うち997人の41.9%が救急搬送歴ありと回答した。そのうち自身の病歴等を伝えられたと答えた高齢者は497人(49.8%)に留まったことにより、救急タグ等の健康情報共有ツールの普及は需要があると考えられた。会場から救急タグのコスト等に関する質問が出て、普及のためには更なるコストダウンが必要との回答があった。
 第4演題は「急性期医療情報統合ビューア(Abierto Cockpit for ER)の導入が救急初期診療に与える影響」という題目で関西医科大学総合医療センター看護部の山田果依氏が発表した。Hybrid ERに新たに開発された急性期医療情報統合ビューア「Abierto Cockpit for ER」の臨床使用効果について実際経験した医師11名、看護師24名にアンケート調査を行い、処置開始からの時間経過の表示、血液ガスの音声読み上げ、および異常血圧の音声通知などが高く評価された。臨床現場で既に使用されているAbierto Cockpit for ERは医療DXのツールとして診療を支援する有用なツールと考えられた。
 第5演題は「薬剤師が関わっている救急外来でのDX」という題目で済生会熊本病院の甲斐光氏が発表した。同病院で使用している急性期診療支援アプリであるTask Calc. Strokeは患者さんが搬入されるまでの時間や検査・薬剤投与のタイミングをiPhoneでリアルタイムに把握可能で、7分間程度の時間短縮効果があったとのことである。またテンプレートに内容が抽出され、マイナンバーカードやお薬手帳からも情報を入手でき、効果ある事例報告がなされた。
 第6演題は演者が交代し、藤沢市民病院の鈴木真也氏が「藤沢市民消防局における救急業務改革 -救急業務の効率化×救急活動の質向上-」という題目で発表した。同病院で使用している「傷病者情報管理システム」は可視化した傷病者情報や救急現場の画像をタブレット端末利用により医療機関で共有でき、病院到着後の根治的治療開始までの時間短縮を実現できているとのことである。また、今後のAIによる救急現場でのタブレット端末入力の展望も示された。
 第7演題は「シミュレーション教育でのAIを活用した救護ノンテクニカルスキルの評価法の検討」という題目で日本体育大学保健医療学部救急医療学科の三橋正典氏が発表した。同大学1年生36名で救護活動のシミュレーションを行い、ChatGPTのAIを用いたノンテクニカルスキル(NTS;接遇など)の客観的評価法について、AIと教員の間の評価相違について分析した。その結果、2群間でコミュニケーションと時間管理について有意な相違があった。AI評価は会話を文字として表現できるNTS評価において有用であるが、コミュニケーションの際の表情・姿勢などの非言語的要素の情報賦与が現状では足りていないと考えられた。同大学では消防指令業務、救急活動、医療現場の切れ目のない救護システムの統合を目指したDX化の研究が続けられるものと考える。
 本ワークショップで発表された救急現場からの医療DX化への具体的な取り組みは、本邦で働き方改革が開始された救急医療現場において早急に目指すべき取り組みであり、ワクワクする近未来の救急医療を想起される重要なテーマであったと思料する。本ワークショップを提案・企画した守谷峻会長はじめスタッフ関係者に心からの敬意を表したい。

9)腰痛のメカニズムと対策

一昨年の本学会における救急活動時の救急隊の活動向上に向けた検討委員会にて、全国の救急隊員が直面する身体的ストレスについて現場調査を実施した結果からは、救急活動に起因する身体的痛みの影響は男女とも腰部の影響が最も高いことが報告されました。本セッションでは、救急隊員のみではなく、他の医療従事者の医師、看護師、臨床検査技師において、実施している腰痛等を予防する取り組みについて情報共有をします。また、今後、新たな動作補助の導入やボディメカニクス等の方法を取り入れることにより医療従事者の健康を守っていく方法について有効策が提示できればと思います。

会場レポート

座長(レビュアー):田中 啓司
講演「腰痛のメカニズムと対策」(大阪府立中河内救命救急センター・岸本正文先生)講演内容
日本臨床救急医学会・救急活動時の救急隊の活動向上に向けた検討委員会「救急隊の抱える身体的・心理的の負担に関する全国アンケート調査について」(令和5年)から腰痛に関する報告
 ・腰痛の歴史
 ・腰痛の定義
 ・分類、診断、治療
 ・予防 上記アンケート結果からは、救急活動に関係する疼痛部位の最多は腰部67.8%であり、活動内容では、階段搬送、傷病者の抱き上げ、救急車の搬入/搬出時が挙げられた。 アメリカの統計では、欠勤の原因として腰痛が最多であり、治療コストに900億ドルを要し、欠勤日数全体の40%が腰痛であった。 労働災害(4日以上休職)の約60%を腰痛が占め、その内、保健衛生業の就業する者が26.6%を占めていた。 非特異的腰痛の責任部位は脳であるとされ、仕事・職場の心理社会的因子が腰痛予防に関連する。 非特異的腰痛は運動療法は基本で無理ない範囲で歩くことが推奨され、安静は推奨されない。コルセット装着は急性期のみであり、長期の装着は推奨されない。 救急隊活動中の身体負担を軽減する機器の導入
心臓マッサージ器>電動ストレッチャーの導入が進んでいる。パワースーツの導入は進んでいない。
腰痛による人的損失が大きいことを認識することが大切である。
将来的には熱中症対策のように職場全体で腰痛予防対策を講じていく必要があろう。
本学会としても救急業務に従事する各職種の腰痛予防対策を検討していく必要があろう。

10)救急搬送患者の実例をもとにMSWの仕事を考えよう

MSWの仕事は救急外来に搬送された直後から、退院調整や転院調整まで入院中の時間軸に合わせて多様化しています。座長の医師と看護師、MSWをファシリテーターとして、実症例の救急外来から退院までの経過を示しながら、各施設のMSWが自分の施設であればどのように対応するかというディスカッションを行ってもらいます。

11)酩酊した傷病者の受入れに向けた連携アプローチ

飲酒による影響のため、観察や医療機関へ伝達する傷病者情報等に関して、スムーズな救急活動が出来ない場合があります。また、受入れた医療機関で、傷病者に関する情報が得られない等、対応に苦慮していると思われます。しかしながら、アルコールの背景にある疾病のリスクは高くその対応には注意が必要です。飲酒による傷病者に対する救急隊、医療機関、警察機関の連携の在り方について、各機関での対応経験などを共有します。併せて、酩酊に隠れた傷病など症例も交え、各機関として注意すべき点などを議論してみたいと思います。

専門医共通講習・救急科領域講習のご案内

日本救急医学会 救急科専門医及び今年度受験中の先生方

本学術集会期中に講演されます下記講習について、「専門医共通講習」「救急科領域講習」の対象となる講習会として認定されましたので、奮ってご参加下さいますようお願い申し上げます。

専門医共通講習

6月20日(金) 15:10~16:10
「日本の薬剤耐性菌の現状」
演者:上原 由紀(順天堂大学大学院医学研究科 臨床病態検査医学)

6月20日(金) 16:20~17:20
「メディカルコントロールをめぐる喫緊の課題―携わる医師の倫理と法的責任―」
演者:橋本 雄太郎(香川大学危機管理教育・研究・地域連携推進機構)

6月20日(金) 17:30~18:30
「医療安全の基本と最近の動向」
演者:上條 由美(昭和医科大学大学院保健医療学研究科)

救急科領域講習

6月21日(土) 14:10~15:10
「外傷蘇生のPrinciples とCutting Edge—基本をおさえ、最前線をつかむ—」
演者:室野井 智博(島根大学医学部附属病院高度外傷センター)

6月21日(土) 15:20~16:20
「意識障害患者における初期診療とその鑑別の重要性」
演者:一二三 亨(聖路加国際病院救急部)

講演会場における「e医学会カード(UMINカード)」ご提示のお願い
上記の講演会場におきまして、「e医学会カード」の読み取りによる受講確認を行います。受講を予定されている救急科専門医及び今年度受験中の先生方は講習の際に「e医学会カード」をご持参ください。
(「e医学会カード」を忘れた場合も参加・参加登録は可能ですが、できるだけ「e医学会カード」のご提示にご協力いただけますようお願い申し上げます。)

事務局

自治医科大学附属さいたま医療センター 救急科内

〒330-8503 埼玉県さいたま市大宮区天沼町1-847

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